5月31日より、東京ドームシティ内のギャラリー「Gallery AaMo」にて開催されている『河森正治EXPO』。クリエイター生活40周年を迎えた河森氏による、作品のデザイン稿、絵コンテ、アイディアノートを一挙に集めた展覧会となっている。その開催を記念して、河森氏と、『EXPO』の応援アンバサダーを務めるアーティスト・西川貴教氏との対談が実現! 河森氏と西川氏という稀有なクリエイター同志による、エンターテインメントの未来に向けた熱い対話をお届けする。
まずは西川さんと河森作品との出会いを教えてください。
- 西川
- 『河森正治EXPO』を拝見させていただいたのですが、「えっ! この作品も?」というのが多すぎますよね。最近のものでも、『ひそまそ(ひそねとまそたん)』(18年)にも参加していらして(※メインメカニックデザインで参加)、「あ、これも河森さんなんだ!」と。
- 西川
- もちろん、きちんと河森さんの作品だと認識していたという意味では『超時空要塞マクロス』(82年)がやっぱり印象深いです。
おふたりが直接会話を交わしたのは、つい先日NHK BSプレミアムで放送された『全マクロス大投票』の楽屋だそうですね。
ただ、その前に河森さんは、西川さんのライブをご覧になられていると。
- 河森
- はい。西川さんのライブパフォーマンスは「すごい!」と以前から思っていて。
- 河森
- もう圧倒されたんです。それ以外にも、舞台(2018年に催された地球ゴージャスの舞台『ZEROTOPIA』)に西川さんが出演されていた際も観に行っているんです。その舞台を観て、西川さんは本当にいろんなことができるんだなと。
そうした経緯もあり、西川さんの応援アンバサダー就任に繋がったんですね。
- 西川
- 僕自身のアニメ遍歴やこれまでの活動を掘り下げていくと、「スタジオぬえ」(河森がプロ生活をスタートさせた企画制作スタジオ)や「サテライト」(河森が専務取締役を務めるアニメ制作会社)が関わった作品にも数多く触れてきましたから。『重神機パンドーラ』は、最初は河森さんの作品だと知らずに観ていたんですよ。でも、途中から「あ、これ河森さんかな」って気づいて。
- 西川
- そうなんです。河森さんの独自のテイストがあるんです。画面上に現れるキャラクター性とか、メカのカッコ良さ、そしてハードSFとして直感型の部分も含めて。例えるならば、糖衣錠みたいなもの。周りは甘くてとっつきやすいのに、中は劇薬みたいな。
- 西川
- 最初は画面にスッと引き寄せられて、近づくととんでもないものが根幹にはあって。もうね、僕はそれに騙されて「やられた!」って思うわけです(笑)。『マクロスF』(08年)や『創聖のアクエリオン』(05年)もそうですけど、1話からあまり説明もなく物語が始まっていくじゃないですか。でも、歌やキャラクターの絶対的な良さがあるから、入り込んだら最後、胃の中で爆発するみたいな(笑)。
それが河森作品の特徴であると。
- 西川
- それが魅力だと思いますし、高い中毒性に繋がっていると思います。
西川さんは多くのアニメ作品でテーマソングを担当されていますが、アニメや映像作品とコラボレートするときに心がけていることは何でしょうか?
- 西川
- オープニングでもエンディングでも、視聴者を日常から作品の世界へ繋ぐインターフェースの役割を果たしていると思います。このときの“段差”が大きいと、視聴者にも違和感として残る。でも、この接続部分が気持ちよく繋がると、歌の昂ぶりが作品にも反映されていくんですよね。
- 河森
- 主題歌や劇中歌って、一種のフォールドゲートのようなものですからね。
- 西川
- そうなんですよ。河森さんは、歌がフォールドゲート、作品の入り口であることを理解されていらっしゃる。セリフやひとつのシーンと同じ扱いに近いというか、作品に楽曲を提供する人間からすれば、歌と映像の理想の関係が河森作品にはあるんです。
- 河森
- その感想はありがたいですね。自分で音楽のつけ方を分析するなら、僕は悲しいシーンに悲しい音楽を、戦闘シーンに勇ましい戦闘の音楽をつけるのがあまり得意ではなくて。悲しいシーンがあったら、そうじゃないベクトルに音楽を向けることで物語が立体的になるような、そういう作り方がしたいんですよ。戦闘シーンに勇ましい音楽を合わせるときも当然あるのですが、それは違和感を与えたくないときで、そこから一気に展開を広げる場合にはまったく異なるベクトルのものにしていきたい。それは曲を使う上では心がけていますね。
発注の段階でも、それを音楽側に指定したりするのでしょうか?
- 河森
- ええ。戦闘シーンで使う曲であっても、シーンに寄り添わせすぎないでくださいとメモします。例えば、「愛・おぼえていますか」も、戦争を終結させる歌ではなく、普通のラブソングとして聞こえて欲しいと伝えています。
- 西川
- 音楽側としては、その作品といかに“合体”できるかを考えますが、まず大事にするのは、監督や関係者の方々に感動してもらえるかどうかで。
- 西川
- これがいちばん大きくて。そこから生まれた作品側と楽曲とのケミストリーって、思いのほか遠くに届くんですよね。制作に関して正解はないんですけど、「この曲が欲しかった」って言っていただけるような関係性になれればベストなんです。この感動は単に楽曲を作っているだけでは味わえなくて。
- 河森
- そう言っていただけると、アニメの制作者としては堪らない感じです。
さて、西川さんが応援アンバサダーに就任された『河森正治EXPO』についてもお伺いしますが、実際にご覧になられていかがでしたか?
- 西川
- 河森さんというひとりの人間から、これだけのものが出てくるという純粋な驚きがまずありました。その上で、なお次に向かって新しいものに挑戦したいっていう気持ちで溢れていらっしゃる。一ファンとしては、これから何が起きるんだろうってワクワクしますね。これまでもそうだったじゃないですか。インターネットやAR、VR、AIといった技術にとっくの昔に気づいて、それを作品に反映されていて。
- 河森
- 今回のドームシアターなんかも、30年前からやりたいと言っていて、ようやく実現しましたからね。
- 西川
- 言葉は悪いですけど、頭の中はどうなっているんですか、って感じですよ(笑)。河森さんの今回の展示を見て、発想力だったりアイディアの強みだったりは改めて感じましたし、さらにまだまだ新しいことをやろうとしているのだから、若いクリエイターのみなさんは相当頑張らないと背中が見えてこないだろうなと(笑)。
- 河森
- そんなことないですよ。逆に僕の場合、早すぎて叩かれるんだから(笑)。『超時空要塞マクロス』だって、「戦争中に歌うのは不謹慎だ」って、リン・ミンメイのことを否定されまくったわけですよ(笑)。
- 西川
- そういう意味では、河森さんが劇中でキャラクターが歌を歌う、キャラソンの立役者なわけじゃないですか。個人的に交流がある『マクロスF』のMay’nちゃんなんかもそうですけど、作品の力が乗り移ることで彼女の別の一面が引き出されていって、そこから新たな音楽が生まれていく。それは僕ら歌手にとっても理想的な形なんですよ。
- 西川
- だから今回の『EXPO』で、タボくん(※西川氏のキャラクター)と『創聖のアクエリオン』のコラボTシャツが実現できて嬉しかったです。
ここから先、もし本格的にコラボレートできるとするなら、どのようなアイディアがありますか?
- 河森
- そうですね、僕の勝手な願望を話させてもらうと、西川さんのライブの演出とか、ライブ映像を制作するとか。
- 西川
- えぇ~! 実現したら確実におもしろいことになりますね!
- 河森
- でもこれ、思いついたら早くやらないと、技術で見せるようなものは、すぐに古くなる。プロジェクションマッピング演出とか、ドローンの技術が上がりすぎちゃったんで。
- 西川
- 逆にいうと、河森さんが思い浮かんだことを、すぐにできる技術があるということですよね? 河森さんのそうしたアイディアって貴重だと思うんですよ。アニメはもちろんですけど、これからのいろんなエンターテインメントに活かしてもらいたいなと思います。
- 河森
- そうですね。このまま行くと日本は少子高齢化だし、アジアの勢いがすごいじゃないですか。だから、僕くらいの歳になると、若いクリエイターたちにこれまでの全ノウハウを公開してもいいやって、気持ちになる。今回の『EXPO』もそうですけど。
近年、制作環境や視聴環境は激変していますが、その中で、これからの活動をおふたりはどのように捉えていますか?
- 西川
- メディアがCDからストリーミングサービスへと変わっていく中で、音楽が聴かれる機会自体は以前より相当増えている一方で、ビジネスという点では難しくなっていて。河森さんも実感されていると思うんですけど、アジア圏の発想力や、それを具現化していこうとする彼らの勢いに太刀打ちすることを考えると、新しいことにトライし続けてなきゃいけないんです。僕自身も、今また新たなトライとして、「西川貴教」としての活動に専念していて。
- 河森
- そういうチャレンジは、意識的にされているんですか?
- 西川
- はい。T.M.Revolutionとしてデビューしてから20年を超えて、西川貴教として新たなキャリアをスタートしているんですけど、これまでとまったく違う発想で物事に取り組んでいるんです。例えば、ラジオ局に積極的に通ったり、レコード店の店頭に出向いたり、そういう作業をもう1回大事にしたいなと思っています。そういった足元のこととは逆に、どこまで世界に裾野を広げていけるのかというのもずっと考えていますね。
- 西川
- 音楽としても、僕自身のこれまでのサウンドアプローチとは違うものを打ち出していく必要はあると感じていて。今って、日本のロック自体にもなかなか未来を見出していくのは難しい時代で。その中でいかに活路を見つけていくのかは、ずっと考えて研究している最中ですね。
- 河森
- 危機感があって、何かを変えていこうとされているのは素晴らしいですね。
- 西川
- なので、河森さんがおっしゃられた、ライブの演出はぜひ実現したいなと。
- 河森
- 音楽家だけ、アニメーション作家だけが単独で立っているだけだと、淘汰されていく可能性が十分にありますからね。
クリエイターたちの“横”の繋がりによって、世界を見据える必要があると。
- 河森
- そうしないと、ネット環境が進んだことで集合知が機能し始めちゃっているんで。個人がどうこうやっただけだと、速度の面で太刀打ちできないんですよね。
- 河森
- クオリティとかオリジナリティは個人でも獲得できます。でも、スピードで負けちゃう。最近のアメリカのように、予算をかけて集合知をやられると勝てない。だとしたら、ジャンルの垣根も、国境も取っ払った上で集合知を使うしかない。
- 河森
- 実際、コミュニティは完全に国境を超えていて、別の国の人たちとも簡単に集合知が作ることができる。この中で生まれた意外性や合体技によって、錬金術のように新しいものが生み出る瞬間は、自分自身、これからもどんどん体験したいと思っています。
- 西川
- はい、わかります。プロ生活40年を迎えた河森さんがこう言ってくださるのは頼もしいし、楽しみです。
- 河森
- いろんな垣根を超えていかないと行けないですから。ちょっとした壁が、時代遅れになる世界がもうすぐきちゃうと思うので。
- 西川
- 新たなチャレンジとして、ミュージカル作品なんてどうですか。音楽で物語を紡いで、演出する映像作品。
- 西川
- 『ラ・ラ・ランド』のように、音楽をキーとしたミュージカルテイストの物語を、アニメーションとして表現するような。僕も好きが高じて声優にチャレンジさせていただきましたけど、逆にプロフェッショナルなシンガーが、きちんと声の仕事に取り組んでいただけるような。
- 河森
- それはやり甲斐がありそうです。今、どんどんシンガーの候補が頭に浮かんできて、すぐにでもブッキングしたくなりますね(笑)。
- 西川
- それができたらおもしろいですよ。もうそれだけでひとつのエンターテインメント・ショーができあがる。
- 河森
- ヤバいですよ、企画が増えちゃいますね(笑)。
- 西川
- 楽しみです(笑)。この『EXPO』をきっかけにして。